Wild Rat Fireteam
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第3話

「だから、陣形から飛び出して一人でつっぱしるなって言ってるでしょ!」

この日も、軍事棟下級兵宿舎には、いつもの怒鳴り声が響いていた。
時刻は夕方。
声の主は、いわずもがなソフィーである。
どうやら今日の話題は、昼間に行った合同訓練のことのようだ。

「横の隊列が崩れたら陣形の意味ないのよ!」
三つ編みを揺らして、ソフィーが怒鳴る。
「目の前に敵ひとりしかいねえんだから、一人で倒しに行ったっていいだろ!」
彼女に対峙するエストも、ソフィーに負けじと言い返す。
2人は通路のど真ん中に立ち、そばを通る人には目もくれない。

いつもの喧嘩と唯一違うのは、サムエルが私用で席をはずしている点だ。
仲裁役がいないせいで、2人の言い合いはますますヒートアップしていく。
「よくない! とにかく、作戦や命令をもう少し守りなさい! このまま一人で勝手な行動したら、味方に迷惑でしよ!」
「オレがいつ迷惑かけたよ!?」
「入隊翌日の侵入事件で、魔力切らさせたのはどこの誰」
「それは…」

エストは押し黙る。
入隊翌日にサムエルを巻き込んで、彼の魔力を切らさせた。結果、ソフィーの助けが無ければ彼は転落死するところだった。

罪の意識は、大なり小なりエストも抱えているようだ。

「……ほら。アンタの意欲は買うけど、それで迷惑かけてる人もいるの。どうせあのとき、勝手な好奇心で侵入しようとしたんでしょ?」
その言葉に、エストは即座に言い返した。
「あれは、好奇心なんかじゃない!」
「じゃあ何よ」
ソフィーから、すかさず反撃の一言が返ってきた。

……話すべきか、黙秘するべきか。
エストは一瞬逡巡し、そして、前者を選んだ。

「会いに、行きたかったんだ」

ソフィーは首をかしげる。
目の前の喧嘩相手は、さきほどまでの威勢の良い態度から一変……気恥ずかしそうにうつむいているではないか。
変な間ができてしまい、ソフィーは思わず訊いた。
「……誰に?」

「……テセラに」

耳を疑った。

いま、なんて言った?

テセラ?
こいつは、彼女が誰か分かってて言ってるのだろうか?
テセラ・I・ミラク・アルファルド。
彼女は、この国の王女……正真正銘のお姫様だというのに?

***

「ばっかじゃないの」
ソフィーの言葉が、エストの胸に刺さる。

硬直したエストになど目もくれず、ソフィーは続けた。
「第一、何? お姫様に会いたい、だなんて。アンタ自分の年齢分かってる?」

エストは返す言葉もなく、うつむいて口を閉ざす。

「アンタもう13でしょ。子供のころのキラキラした身も蓋もない願い事なんていつまで持ち続けてるつもりよ」

「それにそもそも、あの日テセラ様の部屋に侵入できたとして、只の新兵のアンタに本当に会って下さると思ってるの? 身の程を知りなさいよ」

「もしかして、軍を志願したのもテセラ様のため、なんて言うんじゃないでしょうね?」

「そんな半端な覚悟で人命を預かるだなんて、ほんっとに馬鹿馬鹿し……

「分かんねえよ!」
エストの怒鳴り声が、ソフィーをぴしゃりとたたきつけた。
ソフィーは面食らった顔をして、エストを見つめる。

自分の言葉をいきなり怒声で遮られたから……それだけではない。
その声は、いつもの口喧嘩とは違ったからだ。
威圧感のある、それでいて、何かにすがるような痛切さも帯びた、そんな声。
怒りだけではなく、悲哀も帯びた声を、いきなりたたきつけられたからだ。

そしてその感情は、声だけではなく、彼の顔にも表れていた。


WRF3

「お前には……分かんねえよ……」

声は震えていた。

ソフィーはどう反応していいか分からず、その場に立ち尽くす。
彼女から背を向けて通路を走り去っていくエストを、ソフィーは見送るほかなかった。

***

エストの人影が見えなくなったころ、後ろから声をかけられた。
「マレットさん……」
振り返ると、サムエルが立っていた。
その顔は、今にも泣き出してしまいそうな情けない表情を浮かべている。

「サムエル。何か用?」
「ごめん。一部始終、聞いた」

「……だから何? 私、別に間違ったことなんか言ってないわよ」

サムエルはうつむいて、言う。
「……そうだね。普通の人から見たら、マレットさんの言うことは間違ってない。おかしくなんか、無い」

サムエルはそう言うと、深く息を吸ったのちに顔をあげた。
その眼差しは、キッとソフィーを深く突き刺すように強い。
いままで見たこともないサムエルの表情に、ソフィーは一瞬たじろぐ。

何よ、何でそんな顔であたしを見るの?
「エストは……! エストは、テセラ姫しか残されてないんだよ」
「えっ?」

「エストは、家も、父親も、母親も、兄弟もいない! もう……もういないんだ」


 
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