Weeping Clown |
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U- 3 景色が明転し、まぶしさに二人は目をつぶる。 瞼の裏から伝わる光が弱くなったのを確認し、目を開くと、そこは元の廃村だった。 「戻ってきたんだ」 リオンがいう。 レイスも頷く。過去の自分と向き合えたから、クラウンの変化は解けたのだろう。 リオンの助けがあったこそ。自分はリオンに守られたのだ。 彼女の方をみると、満面の笑みを浮かべていた。さっき泣き崩れていた顔は、どこへいったのか。 レイスが驚いていると、リオンはバッと抱きついてきた。 「やった! やったよレイス! 昔の自分に勝ったんだよ!」 血がつくことも厭わずに、リオンはレイスに抱きついてぴょんぴょん跳ねる。 「リ、リオン落ち着いて」 クラウンは、変化を解かれただけだ。まだ倒したわけではない。 「クラウンが何に変化したのか分からない今、あれを探さないと」 「あ、そっか」 リオンはそう言って、足元の剣を拾おうと地面を見る。 そこには、かさかさと動く一匹のクモがいた。 体長5センチほど。リオンは思わず飛びのき、悲鳴を上げる。 「いやあ、ク、クモ!!」 「え、リオン蜘蛛が駄目なんですか?」 彼女はレイスの胸の中で頷く。 「むかし友達が悪ふざけして、服の中に入れられたことがあって……正直、今は火事よりこっちのがトラウマ」 レイスは苦笑する。 男友達の悪戯に巻き込まれたのだろう。女の子らしいトラウマだ。 クラウンが変化したものは、この蜘蛛と断定していいのだろう。 「それじゃあ、一緒にこの魔物を倒しますか」 レイスは足元の剣を拾い、鞘から抜く。 リオンはレイスから離れて、杖を構えなおした。 石突の部分が蜘蛛に刺さるように杖を持ち、顔をそむけつつ狙いを定める。 「いきますよ。一,二の……」 三。 二人の剣と杖は同時に蜘蛛を貫く。 そして、魔物との壮絶な戦いはようやく幕をおろした。 * 「顔を上げなさい」 ライラの声が、頭上から聞こえる。 「あげられません」 レイスは腰から頭を下げた姿勢から動くつもりはなかった。 ライラは、自分が殺した人間の遺族に当たるのだ。いまさら事実を隠し、保身するつもりはない。 それに、クラウンとの戦いの前に放った言葉がライラを深く傷つけたことも、十分理解していたつもりだった。 ライラの声が聞こえる。 「あんたにはまだ話してもらいたいことがあるの。どうして人を殺すようになったの? 経緯と理由をきかせて。頭を上げろといったのは話をさせるためよ」 レイスは少し躊躇したが、仕方なく頭をゆっくりとあげる。今の自分には、ライラが納得いくまで全て話す義務がある。 傍らにいるリオンにも、自分の出生を聞いてほしかった。 レイスは、人を殺すようになった経緯を話した。 そして、体のない”ゴースト”の状態だった自分が、なぜ今は普通の人間と同じように生きているのかも。 * 十年前。 まだレイスに体がなく、殺人を繰り返していた頃。 ライラの故郷となった町で、彼は殺人を繰り返していた。残りの人間は八人。あと七人殺して、次の町を探しにいくつもりでいた。 とある女性に、声を掛けられるまでは。 「もう、やめて」 自分の背後で、声がした。 若い女性の声。透き通った、繊細な声だった。 振り返る。そこには、十五歳くらいの少女が立っていた。 空色の髪、空色の目。服も淡い空色。 彼は驚愕した。少女の瞳はまっすぐに、他でもない自分の瞳を見つめていたから。 目が合う。 それすら、彼は初めて経験した。 戸惑う彼をよそに、彼女は続ける。 「お願い。もう人を傷つけるのはやめて」 その言葉は、まっすぐ自分に向かって放たれていた。 彼は、久々に発する言葉を、その少女に投げかける。 「……見えるの?」 彼女は、頷いた。 会話。 初めての会話に、彼は緊張する。そして疑問にも思った。 「どうして、見えるの?」 「私も、きみと同じだから」 「同じ?」 「きみは、魔法で作られたんだよね。魂だけ」 少女の問いに、素直に頷く。 「私も、そうなの。魔法で作られた人間。私は体もあるのよ」 そういうと、少女はこちらに手を差し伸べる。 ――僕に、触ろうというの? 緊張するなか、指が近づく。体に触れる、と思った瞬間、彼女の指は体を通り抜けた。 「……やっぱり」 彼女は悲しげに、そういった。 何者なんだろう、彼女は。 殺人鬼の自分に対し、まるで普通の男の子とのように接する。 「君は何がしたいの?僕を止めたいの?」 「ううん。私には分かるよ。君は、他の人と同じように体が欲しいんだよね」 いきなり核心を突かれ、彼は戸惑う。 体があれば。他の人に見える体があれば。声があれば。手があれば。 こんなこと、しなくてもすむんだ。 彼は、頷く。そして、言う。 「欲しい。僕も、みんなと同じようになりたい」 空色の少女は、ふっと微笑んで、そして言った。 「いいよ。体、作ってあげる」 |
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