Wild Rat Fireteam
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Epilogue




どんな夜にも、終わりは来る。
夜は明けて、また新しい日が昇り、アルファルドの城を明るく照らしていく。

昨日の式典から一夜明けて、王城はまた元の平静を取り戻していた。

エレクシア王族の滞在は昨日だけ。
今頃は西のアトラス山脈を越えて、自分たちの国へと戻っている筈だ。

いつも通りの朝。

いつも通りの訓練を終え、いつも通りの席でいつも通りの食事を囲む。

アイザックが食事を終えて自室へ戻ったあと、ソフィーとサムエルは待ち構えていたように好奇の視線をエストへ向けた。

「で、どうだったの!!??」

さすがのエストも、その質問の意図ぐらいは理解している。
身を前に乗り出すソフィーに若干身を引きつつ、飲み物を一口飲んでから……エストは小声で言った。

「……テセラに告られた」

友人2人の表情が止まる。
まるで時間そのものが止まったように、空虚な表情がぽかんとエストの眼前に2個浮かんだ。

「「……は???」」

異口同音。
口調穏やかなサムエルが「は?」なんて言うところをエストは初めて聞く。

「だから、昨日はテセラに」
その言葉を、2人の絶叫に似た声が遮る。
「ええええ!!?? ウソでしょ!?」
「それでそれで!? 受けたの!?」

目を爛々と輝かせる2人に対し、エストはシーッと立てた指を自分の口元に当てる。
ここで大声を出されると困る。社会的に死ぬからだ。
「バッカ、デカい声だすなよ!!」

2人をなだめたあと、エストは言った。
視線は恥ずかしくて横に逸らす。

サムエルとソフィーも状況を察し、ひそひそ声で会話を続ける。
「……で、エストはそれ、受けたの?」

気恥ずかしい。
けれど、ここは正直に答えないと後々面倒なことになりそうだ。
「……当たり前だろ」

次の瞬間、友人たちの表情が燦然と輝いた。
「キャー!!」
ソフィーとサムエルが手を取り合ってぴょんぴょん跳ねている。

こんなに明るい表情を浮かべるソフィーは初めて見た。そして、こんなに生き生きと動くサムエルも初めてだ。

お前ら、いつからそんなに仲良くなったんだよ。

「あああ分かった! 落ち着け、落ち着けって!!」

「これが! 落ち着いて! 居られるもんですか!」
ジャンプのリズムに合わせてソフィーが言う。

良いから着地してくれ。
エストの懇願を表情から読み取ったサムエルが、ソフィーと一緒に着席した。
ジャンプによほど体力を費やしたのか、上がった息を整える。

そして、ふわりと笑いかけた。
「…おめでとう。テセラ様を、幸せにしてあげて」

優しい、あたたかな陽だまりのような微笑み。
心からの祝福の気持ちを、エストは感じ取った。

昨晩の叱咤激励。
橋を使ったバルコニーへの突入作戦。
入隊翌日の侵入。

サムエルとソフィーには、いつも支えられてきた。
だからこそ、テセラに思いを伝えることができたのだ。

「……2人とも」

ありがとう、と言いかけたエストをソフィーが手で制した。
「その先の言葉はまだ聞かないわよ」

サムエルが頷く。
「そうだよ! ありがとうって言っていいのは、エストとテセラ様の仲を皆に公表できるようになったときだよ!」
「あらサムエル、私は婚約のときだと思ってたけど?」

「こっ!?」
婚約の2文字にエストが反応する。

まだ付き合って半日も経ってないのに、もう婚約の話とは気が早すぎるのではないか。

ソフィーの言葉に、サムエルは再び頷いた。
「そうだね。結婚がゴールだよね!」
「そういうこと。エスト、自覚してる?」

自覚って?

話についていけてないエストが口をぱくぱくさせている。
言葉も出ない。

サムエルとソフィーは顔を見合わせ、にっこりと言った。

「「ここからがスタートなんだから、頑張ってね!」」

スタート。ここからが。

エストは言葉を頭の中で繰り返す。
そうだ、昨日やっと始まったばかりなのだ。

これはゴールなのではない。
テセラの恋人としての生活を紡いでいくのは、これからなのだ。

エストは顔を上げる。
燃え尽きた故郷の中で渇望していた生活を、やっと手に入れたのだ。

ここから始めよう。

新しい生活は、いま幕を開けたばかりだ。







Wild Rat Fireteam The Fin





 
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