Weeping Clown |
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プロローグ グレン大将はその時、自室内で16杯目のエール酒を一気に飲み干した。 夜を徹した魔物の討伐任務から帰ってきたばかりだというのに、睡眠もとらず彼は祝杯を一人であげている。 本来この時期に軍の者が過度の飲酒を行う事は、国軍の規定で禁じられている。 が、彼は聞く耳をもたなかった。 彼にとって、酒は何よりも重要な休息要素。 アルコールを摂らずに睡眠をとるなど、彼には出来るはずも無かった。 グレンは、師団の間では大酒飲みの大将として名を馳せている。 しかし彼は酒にとても強いわけでもない。 他人よりも少し――いや、大分酒が好きで、他人よりも少しアルコールに強いだけなのだ。 疲労が溜まった体に、昼前から一気にアルコールを入れたことで、彼はすっかり酔いが回っていた。 寝酒代わりに最後の一杯を酒樽から注ごうとしたその時、ドアのノック音が聞こえた。 「なんだ」 グレンはドアを開ける。立っていたのは士官だった。弓兵のワルター。階級は確か、ふた月前に伍長に上がったばかりだ。 ワルターは走ってここまで来たようで、軽く息が上がっている。 「突然失礼いたします! グレン大将にどうしても取り次いでほしい、という奴がいまして」 「取り次ぎ? あー、今忙しいから後にしてくれねえか」 正直、対応する気力も集中力もない。それに今は夜中だ。 「それが……」 ワルターの話を聞き終えると、グレンの表情はかわった。手の空ジョッキを乱暴に机へ置き、部下と共に自室を飛び出した。 * アルファルド王城の北東門、裏。問題の人物はそこにいた。 やってきたグレンの目に最初に留まったのは、小柄な少年。 おそらくアルファルド人ではないのだろう――珍しい色の髪と、大きな瞳が特徴的だ。 少年の手には剣。そして、彼の周囲には、甲胄を着た番兵が数名倒れこんでいた 「おいおい、何だこれは」 グレンは思わず頭を掻いた。ぼさぼさの茶髪が更に乱れる。 「おいチビすけ。これお前がやったのか?」 少年は、グレンの問いかけに少し戸惑ったような、驚いたような表情をみせ、そして言葉を漏らした。 「ほ、本当にきた……」 オレはオバケか何かか、と思いつつ、グレンは少年に言う。 「本当に来た、って、何が?」 「あ、あの」 少年は緊張しているのだろうか、かすかに声を震わせる。 「僕……じゃない、私は、この軍の入隊を志願して来ました。取り合ってくださった方に、 『俺らを倒したら入らせてやるよ』って言われたので、とりあえず、倒してみたんです……けど……」 ――いやいや、『とりあえず倒してみた』じゃねえよ。 グレンは自身の目と耳を疑った。少年の周りに倒れているのは、曹長1名、伍長3名、少尉1名。 新兵はいないし、彼ら5人をこの少年1人が倒したなんて、とても信じられない。 少年は絶句するグレンをよそに、続ける。 「それで、そのうち皆さんが話し合いを始めて……『大将呼んでくるからお前は待ってろ!』って言われたので、待ってたんです」 つまり、俺はこの化け物じみた少年のお守りをしろってか。 頭を抱えるグレンの前で、倒れている兵士は悲痛な声をあげる。 「大将、こいつヤバいですよ!10歳のガキだと思ってなめないほうがいいですって!」 「そうですよ大将!俺、コイツに『軍は14歳からだからあと4年待て』って言ったのに頑として聴かなくて、 『じゃあ俺らを倒したら』って言ったらあっさり剣と魔法で倒しやがった!」 「この子普通じゃないですって!」 「ああもう、わかったわかった」 グレンは彼らをとめた。どうやらこの少年は敵ではない。むしろ、進んでこの軍の戦力になりたがっている。 グレンは思案した。 チャンスなんじゃねえか? 自分が戦って、本当に使える人物と思ったなら。年齢や規則なんて、関係ない。 未知数の戦力を持つ少年が、目の前にいる。 使わない手は、ない。 「入隊動機と志望の兵科は?」 「国民を護るため。兵科は……剣を使えるところ」 「魔道師団じゃなくてか?」 少年は深く頷いた。 志望動機と、やる気さえあるならそれでいい。グレンはにやりと笑みを浮かべると、少年へ背を向けた。 「よし! んじゃ、付いてこい。元帥に掛け合ってやるよ」 |
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