名前の由来 |
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V お母さんが、優しく私に笑いかけてくれる。その表情を見て、私もなんとなくほっとした。 「リオンとお兄ちゃんは2つ差があるから……あなたがお腹の中にいるときは、お兄ちゃんは丁度2歳になったばかりね。 最初はね、子供の名前は生まれてから決めようって思ってたの。性別も分からなかったし。 でも、ある日大きくなった私のお腹を見て、お兄ちゃんが呼んだのよ。 『りおん』って」 「……ホントに? はっきり、そう呼んだの?」 「もちろん。私のお腹を触って、2,3回くらいかなあ……『りおん』って呼んだのよ。パパと一緒に聞いたもの、間違いないわ」 お母さんはとてもうれしそうな顔をして、そういった。 ホントに、本当にお兄ちゃんが「リオン」って呼んだんだ。 まだ2歳なのに。 「それでね、お母さん、思ったの」 お母さんのうれしそうな顔に、涙のあとがついているのを私は見つけた。 「ああ、このお腹の中の子供は……きっと、あのとき死んじゃったおにいちゃんの、片割れなんだって」 お母さんの声が、かすかに震えた。 「お兄ちゃんがさびしくないように、ちょっと遅くなっちゃったけど……」 声が震えて、曇る。 さっきよりも真っ赤になった目頭に、涙をいっぱいためて、それでもお母さんは続ける。 「もう一度……もう一度、会いに来てくれたんだなあって……。 お兄ちゃんはきっと、それを無意識に感じて『リオン』って呼んだんじゃないかって、思ったのよ。 きっと、お兄ちゃんは私のお腹の中にいたときから、双子のきょうだいに名前をつけてたのね」 「……」 「だから、生まれてくるこの子には『リオン』ってつけようって決めたの。女の子だから、性別に合わない名前になっちゃったけど。 ごめんね」 大きく首を横に振った。 いいんだ、もう。謝らなくていいんだ。 もう充分だから。 お母さんが私を生むまでに辛い思いを沢山したの、もう充分わかったから。 だから、もうそれ以上話を続けようとしないで。 じゃなかったら、私、もう目に溜まってる涙がこぼれそうだよ。 なのに、お母さんは続けた。 「お兄ちゃんは、あなたが生まれてくるのをとても楽しみにしてたの。でも……たった5年しか、一緒にいさせてあげられなかった」 お母さんのため息がかすかに聞こえる。もう、にじんだ視界しか見えないから、私は下を向いた。 「あの子を……私は、母親として十分に愛してあげられなかったから。あの子をつらい目にあわせた、駄目な母親だから「そんなことない!」 大きな声で、私は遮った。 「駄目な母親なんていわないでよ。だって、だってお母さんは」 声が震える。うまく声が出せない……いやだ、本当に泣きそう。 「私のことちゃんと育ててくれたじゃん。こうして、私が11歳になるまでずっと。 誕生日だって、ケーキ作ってお祝いしてくれて、生地焦がしてもなんども作り直してくれて」 視界がゆらいで、頬を何かが伝った。 わたし、泣いてる。 「駄目なんかじゃない、立派な私の、ううん、私たちのお母さんだよ」 お母さんの表情が崩れて、まるで子供みたいにポロポロ涙をこぼした。私たちは、それからちょっとの間だけ二人で泣いた。 忘れられない、11歳の誕生日。 お兄ちゃんたちがつけてくれた、男の子っぽいけど大切な名前。 お兄ちゃん、名前キライなんて思ってごめんね。 大切にするから、この名前。 End |
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